最近触れたコンテンツの紹介(小説編)
お久しぶりです。
久しぶりに本を読んだのですが、面白かったので軽く紹介します。2冊あります。拙いですが良ければ見ていってください。ネタバレはなるべく押さえています。(数時間で書いたので文章はぐちゃぐちゃかも)
『1984年』
George Orwell著、ディストピアを題材とした小説です。早川から出ている翻訳本を読みました。
この本を知るきっかけは複数あります。一つは、私が予備校に通っていた時期に、現代文の講師が授業中に「逆説的」とはどういう意味かを解説する際の例として「ディストピア」が挙がったことだと思います。
その時の講師の説明は、「平和で合理的な理想社会を人々が目指した結果、かえって非理想な社会へと至ってしまった帰結、それがディストピアなのだ」というものでした。この「かえって」に逆説が現れているのだと。確かに、人々が監視されていることで犯罪行為が抑制されることで本来の目的であった平和な社会は実現されるかもしれません。しかし、そこには個人の自由など存在せず、決して理想的な社会ではないでしょう。ユートピアの反義語ではありますが、表裏一体な概念ともいえそうです。時々、「世紀末的」という意味で「ディストピア」という言葉が使われますが、それは誤りだと思います。
ちなみに、他のきっかけはメタルギアソリッドやVtuber雨森小夜さんの持ちネタだったりします。
超全体主義的社会の実態
『ビッグ・ブラザー』率いる党によって統治されるオセアニア。そこに住む主人公のウィンストン・スミスは、「情報を修正する仕事」をして暮らす党員です。ボロボロなアパートで、テレスクリーン(日夜、党のテレビ放送が流れつつ党による監視も同時に行う機械)に監視されながら貧しい生活を送っています。当然、党に対する反逆的な思想を持つことは重罪ですが、徐々にスミスの頭の中では党や社会に対する疑問や反発を抱くようになります。その中、とある女性と出会い、彼の運命は変わっていきます。大雑把なあらすじはこんな感じ。
小説中では、スミスの生きる社会の様子、そしてその社会がどのように維持されているのかが鮮明に描写されます。小説中の党員は、現実の私たちが抱くような関心や行動規範を全て党へ向けることが当然な社会で生きています。食事は最低限のものが与えられ、嗜好品は通常ほぼ手に入りません。仕事は全て党を維持するための内容ばかり。個人の愛情は抑圧され、性行為は性本能から来る行為では決してなく、単に子供を作るために行うとして物理的にも精神的にも制限されています。
作中では言語(ここでは公用語の英語)の「修正」も進められています。例えば自由意思に関する言葉などは削除され、複雑な思想を展開し表現することも不可能になるような改訂がされていきます。言語相対性仮説に基づくとすると、思想は言語を基盤として展開されるので、党の維持のためには合理的ともいえる施策でしょう。当然、私たちからすれば、それは言語の「改悪」であり、語彙の「貧困化」ですが。
党員は全員、いついかなる時も監視下に置かれており、党に対する反逆的な思考を持つ「思想犯罪」を犯せば、本部によって連行され、「蒸発」することになります。蒸発までの過程は本書のとある箇所で語られることになるのですが、非常に巧妙なので是非読んでみてください。
二重思考-doublethink-
本作品でカギとなるのは「二重思考」です。本記事は解説を目的としていないのでざっくりと触れますが、これは「矛盾する二つの事象を、矛盾として捉えずにそのまま受け入れること」を意味します。例えば、「A国はB国と戦争している」ことと「A国はBと友好関係にある」ことは明確に矛盾していますが、その双方を事実として受け入れることを意味します。社会心理学で言う認知的不協和と少し関係した概念だと思います。
この二重思考は、例えば小説中で行われる歴史改竄に大きな役割を果たします。歴史の改竄は「事実を嘘で塗り替える」ことに他なりませんが、それを行うには事実と嘘を双方とも真実として同時に受け入れる必要があります。そして、不要(不都合)になった事実を忘れ去り、必要に応じて再び思い出す。例えば、Aという人物が存在しなかったことにするためには、まず「Aは存在した」ことと「Aはこの世に存在していなかった」ことを同時に受け入れ、次に前者を忘却するというプロセスを経ることで達成されます。主人公のスミスは仕事の中で二重思考を行いますが、彼及びその仕事に限らず、党全体でこの技法が用いられています。二重思考を駆使することにより党の集権体制が維持される様子は、本書の見どころの一つとなっています。
『1984年』の鳴らす警鐘
本書の執筆時期は1984年以前であり、本書は近未来の一可能性を描いたSF小説ということになります。本書はSF小説だが娯楽の域に留まらない強いメッセージ性を持っている、というのは本書を知っている方であれば既にご存じの通りだと思います。多くの方が指摘している通り、監視カメラやデジタルフットプリントなどにより、私生活における個人の行動が電子データとして追跡可能となった現在、社会がディストピア化することが危惧されています。技術の発達に伴い、一昔前のSFで描かれていたような近未来的な風景が既に現実になりつつあります。しかし、光と影の関係のように、そこには必ずしも輝かしい側面だけでなく、暗い側面も存在します。『1984年』は、その負の側面を鮮明に記述し、現実社会へ警鐘を鳴らしていると言えるのでしょう。本書の描く未来は最悪な世界線の一つであり、非常に恐ろしいです。では、それを避けるための手段は何なのでしょうか_?
…とまあ優等生っぽいことを書きましたが、小説としても非常に面白いです。どちらかというと少し難解寄りですし、腰を据えて読まないといけない箇所もあります。一時、読書の優先順位が下落してしまったのもあり、途中で1年ほど積んでしまいました。しかし、第3部まで到達し、クライマックスに近づくと読むのが止まらなくなりました。ラストの怒涛の展開と伏線回収、そして結末の美しさは、未読の方には是非実感していただきたいです。
『虐殺器官』
伊藤計劃著のSF小説です。この作品を知ったきっかけは、やはりメタルギアソリッドであり、その監督である小島秀夫氏です。小島氏が伊藤計劃氏を話題にしていたこともあり、気になって手に取りました。
必ずしも意図していませんでしたが、続いてこちらもディストピア化した社会が舞台の作品です。『1984年』を読破した直後だったので、背景理解はしやすかったです。作中でも、先ほど話題にした二重思考が引き合いに出されたりと、『1984年』を始めとしたディストピア小説に少なからず影響を受けた作品と言えそうです。
虐殺は如何にして引き起こされるのか
先進国では対テロ対抗措置として個人情報が徹底的に管理される中、後進国では戦争・紛争が繰り返されていた。後進国での虐殺を扇動しているのは、一人のアメリカ人ジョン・ポールだった。アメリカの情報軍に所属する主人公のクラヴィス・シェパード大尉は、彼の暗殺を命じられ、手がかりをつかむために彼の愛人ルツィアの住むチェコへ向かう。ジョン・ポールは何故、どのようにして虐殺を引き起こしたのか。こんな感じの話です。
題にもなっている虐殺器官、その正体とは何か。ジョン・ポールの動機と合わせて、物語はこの謎を主軸として展開されていきます。何を言ってもネタバレになりそうなのでこれ以上は触れないことにしますが、是非クラヴィスと共にその答えへ辿り着いて頂きたいです。
クラヴィスの人物像
物語冒頭の範囲だけで、主人公についても少しだけ触れたいと思います。クラヴィスは、どちらかというと他人に対する関心は薄め。友人のウィリアムズとよく一緒に行動しますが、クラヴィスから能動的に関わる場面は少ないです。戦闘能力は高く冷静に状況を読んで行動する、周囲に信頼される人柄でもあります。
一方で、既に亡くしている母親などの一部の人物に対しては、深い関心を抱いている点でギャップがあるのも特徴です。彼は時折、母親を含め死者で構成される夢を見るのですが、そこで母親と出会い言葉を交わします。その中で母親と自分、そして二人の関係性について見つめ直します。その延長上にクラヴィスは何を見るのか。ここにも是非注目しながら読んでみると面白いかもしれません。私もそうでしたが、親族を亡くした経験のある方は少し考えさせられるかもしれません。
冒頭から結末まで走り抜ける爽快感
私個人の所感ですが、本小説の文体は非常にスピード感があり、話のテンポも良いと感じました。私は読書スピードがかなり遅いと自負しているのですが、それでも夢中になって2日で読破しました(『1984年』は結構時間かかったのに…)。
また、近未来技術や戦闘の描写も多々あり、アクションやミリタリ系が好きな方はきっとハマるんじゃないかと思います。ミリタリオタクではありませんが、メタルギアソリッド的な雰囲気が好物な私にはピッタリでした。題名からも予測できる通り、グロテスクな描写が多いのは注意ですが、それさえ問題無ければ是非一読してみてほしいと思いました。
本作品はアニメ映画化もされているのを最近知りました。今度観てみようかな。
おわりに
あまり内容の無い文章にはなってしまいましたが、少しでも興味を持っていただけたら幸いです。小説はゲームとかに比べると時間を費やしてもそこまで罪悪感は無いですからね…(意見には個人差)。
次は同じく伊藤計劃氏の『ハーモニー』でも読もうかと思っています。傾向が違っていてもいいので、おすすめの小説などありましたら是非お教えください。