Shoot for the moon.

Even if you miss, you'll land among the stars.

絶対、だいじょうぶだよ

 かすとるです。

 今回は、前回よりも少し昔のことを書きます。前回に引き続き振り返りで、自分語り成分が多くて申し訳ないです。まあ、年度はもう少しで替わりますし、いい機会ではないかなと…。

 さて、1月と2月といえば、私にとっては受験シーズンです。1月にはセンター試験があり、1月中旬から2月末(場合によっては3月)にかけて私立または国公立大学の大学入試が行われます。受験生の方はどうか体調には十分気を付けてください…。今年は例のウイルスのせいで単なる風邪を引くだけでも不安になると思いますので…。

 現在2年生(春からは3年生)なので、大学受験を終えてからもう2年が経つことになるんですね。光陰矢の如しとは正にこのこと。しかし、今でも当時の独特な緊張感は身に染みて覚えています。この季節独特の、ピリピリとした寒さ。コートを突き抜ける冷たい風。葉はすっかり落ち、閑散とした並木。キャンパスを歩くだけでドキドキしてしまいます。諸事情あって2回大学受験を経験した身としては、正直かなり辛い季節で、トラウマに近い感覚がします。電車の中とかSNSで受験生を見かけると辛さや焦りがひしひしと伝わってきます。

 さて、今からおよそ3年前、私は大学受験に失敗しました。行きたい大学は一つしかなかったので、1校しか受けませんでした。その代わり、滑り止めの大学の試験勉強に充てる時間を全て第一志望に費やすことが出来ましたが、それでもダメでした。当時としては自分なりにかなり勉強した方だと思いましたが、今振り返れば勉強不足だったと思います。それは得点開示からも明らかで、苦手だった科目の克服がまるでできていなかったんですよね。特に国語なんて3割も取れていませんでした。

 幸いにして、両親は僕のことを応援してくれ、浪人することができ、予備校にも通わせてくれました。本当に親には感謝しています。こうして、経歴には残らない、「空白」の1年間を送りました。空白の1年ですが、これまでの約20年の中でも一番の、勝負の1年間です。

 

 

 

 

 その1年間、僕は何とも言えない恐怖感と隣り合わせで過ごしました。自分が本当の意味での「マイノリティ」だったことが関係します。

 自分は理系志望でした。理系は一般的には理科科目を2つ選ぶ必要があります。ほとんどの学生は物理化学選択で、次に多いのは化学生物でしょうか。では自分はどのような選択をしたかというと、なんと物理と地学です。

 自分が理科の選択を迫られたとき、物理は好きだったので物理を選ぶことは確定でした。得意でしたし。しかし、化学と地学の両方を勉強していたので、もう1科目を選ぶとなると、当時は非常に悩みました。化学をとるか地学をとるか…。

 化学をとるメリットは多くあります。受験の戦略的な面でいうと、ほぼ全ての理系大学を受けることが出来ることが挙げられます。「そんなの当たり前じゃん!」と思う方がほとんどだと思いますが、後でそうではないことが分かります。学問的な理由としては、化学の基礎的な知識や考え方は、大学に入ってからもある程度必要になることです。というか、大学側は、化学の知識は持っていて当然だと考えています。それなら化学を受験で使うのが当然だと言えるでしょう。

 地学をとると、苦労は多々あります。まず、受けられる大学が殆どありません。地学を使うことが出来るのは国公立にほぼ限られます(ごくわずか私立でも受けられる大学や学科はあります)。そのほかの選択肢としては、理科1科目で受けられる大学くらいです。その時点で、化学受験の際には思いにもよらなかった、「志望校の制約」というものが生じます。また、地学の参考書は少なく、問題集は普通の本屋にはありません。なので、演習は大学の過去問と地学が準備されている模試に限られます。地学で受けられる大学は少なく、地学を開講する高校も殆どないので、仕方ないです。

 こうして見てみると、一般的な方から見ると、地学を選ぶことによるディスアドバンテージは計り知れないでしょう。それでも自分は地学を選びました。それは、地学が大好きだったからです。大学受験となると、その科目と真剣に向かい合うことになります。そのためには、その科目に強い興味関心を抱いていることが必要条件だと僕は思います。でなければ、その科目を勉強するモチベーションは続かないでしょう。さらに、もしもその科目の成績が振るわなかったら…?苦手でしかも興味のない科目の成績を、周りの受験生と戦えるくらいまで上げなければならないのは、苦痛でしかありません。それなら、多少好きな科目で戦った方が、十分勝算があると僕は思いました。

 また、自分は個人的に地学の勉強をしていたのですが(高校では地学は開講されませんでした)、それでも周りの化学受験者とは戦えるくらいの成績は取れていました。それなら地学を選んだ方が良いに決まっている、そう考えました。今思えばかなり危ない橋を渡ったと思いますし、親はよく自分を信用してくれたなと思います。感謝しかありません。結果的には現役では受からなかったわけですが、現役で受けた時の得点を見てみると、地学は足を引っ張っていたわけではなかったので、やはり悪い選択ではなかったと思います。

 しかし、浪人中のプレッシャーは酷いものでした。浪人時は、結局は第一志望以外の大学は1つしか受けませんでした(というか受けられませんでした)。あとはセンター利用でその滑り止めの大学に出願しただけです。「もしセンター試験で失敗していたら、滑り止めは1つしかない…。もしダメだったら…。」お風呂に入りながら物思いに耽っているとき、ふとそう思うと、背中がガクガクと震え、居ても立っても居られないような焦りを感じました。

 

 

 そんな恐怖観念に襲われながら勉強する中、僕の背中を押してくれたのは友人です。幸い、予備校の同じクラスに高校時代からの友人がいました。ちょっとした話が出来る相手が身近にいたのは、とても大きかったと思います。また、浪人中3回ほど会ってくれた、現役で大学に受かった高校同期の存在もありがたかったです。一緒にご飯を食べ、大学での生活の様子を聴いたりバカ話をしたりと、良い息抜きになりました。

 また、自分の志望校に現役で受かった友人の存在も大きかったです。浪人中はほとんど連絡は取りませんでしたが、「いつかアイツと同じキャンパスで勉強したい」と日々思っていました。その思いは僕の背中を後押ししてくれたと思います。

 単に大学に合格する以上の目標を持てたことも、勉強の後押しをしてくれました。志望校でしか出来ないことがあったからです。詳しいことは述べませんでしたが、自分の志望学科はかなり特殊で、その学科をわざわざ置いている大学は殆どありません。なので、その学科に行くためには、第一志望に受かるしかなかったんですよね。受験生時代から、大学に受かった先の目標があったのは大きいと思います。

 

 

 そうして恐怖感と戦う日々を送り続け、いよいよ第一志望の受験当日を迎えます。幸い滑り止めには無事に受かっていたので、少しだけ楽な気持ちで受験することが出来ました。しかし、当日に事件が起こります。平年に比べて易しかった数学でミスが多発しました。手応え的には多くの受験生が解けていそうな問題で、大きな計算間違いをしていたり、制限時間が迫って焦って計算を進めてしまったりしてしまいます。

 比較的得意だった数学での失敗で思わず泣いてしまいました。それでも得意な理科で挽回しようとしましたが、今度は大好きな地学で自分の実力を発揮できませんでした。これは、もう1つの物理が非常に難しく、そこで時間をとられてしまい、地学に充てる時間が予定よりも短くなってしまったことに因ります。さらに、化学が易化したという情報が周りの受験生から飛び込んできます。周りの人が化学で稼ぐ以上の点数を地学でとる作戦だった僕にとっては非常に痛いです。

 こうして、自分の得意な科目で戦略通りに点数を取ることが出来ず、最後の苦手な英語を迎えます。気分は絶望的でしたが、なんとかしなければなりません。そこで、自分は休憩時間中次のような行動をとりました。

 

 まずは、教室を出て、建物周辺を散歩します。外のひんやりとした空気を吸うのは良い息抜きになります。

 次に、持ってきていたウォークマンで、お気に入りの曲を聴きます。坂本真綾さんの『プラチナ』です。これは、アニメ『カードキャプターさくら』のOPテーマです。

 カードキャプターさくらは自分の大好きなアニメで、主人公「木之本さくら」がどんなにくじけそうになりながらも真っ直ぐに立ち向かう姿に勇気をもらっていました。そんな彼女には、いざという時の魔法の言葉があります。

 

  「絶対、だいじょうぶだよ」

 

 実は、1年間浪人生活を送る中で、この一言にはいつも救われていました。「もしも落ちてしまったら…」1年間常に付き纏ってきたこの負の妄想を取り払ってくれたのは、いつもこの一言でした。なんの変哲もない一言のように思えますが、作中のさくらちゃんにとっては「無敵の呪文」です。この一言で、さくらちゃんはどんな局面も乗り越えていきます。

 教室の中、僕は『プラチナ』を聴きながら、その言葉を心の中で何度も呟きます。

 

  「絶対、だいじょうぶだよ」

 

 「あと1科目、これで全てが決まる…。頑張ろう…。」

 

そうして、苦手ながらも最後の英語の試験でなんとか食らいつこうと思えました。僕からすると難問ばかりでしたが、必死に、自分なりに一つ一つの問題に向き合おうとしました。そして、試験終了の合図が大教室に響き渡ります。

 

 

 こうして、僕の第一志望の受験は終わりました。それからは後期試験の勉強をしつつ、合格発表を待つ日々です。友人の合格報告がSNSを通じて届く中、合格を待つ日々もなかなか心臓に悪かったです。

 そして発表当日。最近ではネット上で合否を確かめる方が多いですが、自分はキャンパスまで足を運び、掲示を見に行きました。自分が試験を受けたあのキャンパスで、自分の「空白」の1年間の努力の結果をこの目で確かめたかったからです。そして掲示板に自分の受験番号を見つけた時は、思わず口を覆い、涙してしまいました。自分の努力が報われたと思った瞬間でした。「空白」の1年が終わり、自分にも春がやってきました。

 入学後に届いた得点開示を見てみると、案の定数学と理科の点数は芳しくありませんでした。英語の点数も思ったほど良くありませんでした。驚きだったのは、苦手だった国語の点数が前年の2倍に跳ね上がっていたことです。自分の1年間の勉強は正しかったのだと思えました。そんな僕の勉強を支えてくれた友人や家族には感謝しきれません。

 英語も、最後に勇気を出せなかったら点数はもっと低かったでしょうし、実際英語がもう少し悪ければ自分は不合格でした。あの時、さくらちゃんから勇気を貰えたおかげだと本当に思います。

 最後になりますが、これから大学入試を迎える方は、どうか自分のことを信じてあげてください。自信を持ってください。勇気を振り絞ってください。そして、もしも辛くなったら、この言葉を唱えて自分に言い聞かせてみて下さい。

 

   「絶対、だいじょうぶだよ」

 

皆さんにも暖かい春が訪れますように祈っています。それではまたいつか。